白薔薇

夏の庭の午後は

PalestrinaKyrie

広がる旋律

 

芝の上に戯れ 

青く香る蒸気は

去年君が触れた土と

今年風が揺らした葉から

立ち昇る

 

それは

翡翠色に光る 

音の粒子

 

君は瞳を閉じて

少女のように柔らかな脚で

白い薔薇の隣に 立つ

 

静かに僕を見つめて

 

「雨が降るの」ときく

 

君は僕に鳴いて欲しいの

 

僕も瞳を閉じてみる

白磁の光が

薄い瞼に透けて

この小さな世界を奏でる

恍惚なる午後の太陽に溶けてゆく

 

もしもこの瞳を開けたなら僕は

君を抱きしめぬままに

涙を流してしまう・・・

 

天から降りてきたBenedictus

これは君の歌か

 

「雨が降るの」と

君がきく

 

その大きな瞳は

陽光に霞んで

夏の庭はもう心綺楼のように

鈍く揺れていた

 

緑の音が強烈な輪郭を現す

 

白い花弁に

君は吸い込まれて逝く

 

夏の庭の午後

立ち昇る旋律

白い薔薇になった

 

嗚呼Benedictus  …religioso

それは

君の歌声

 

僕は今という

刻の軸に立ち竦んで

揺れる夏の葉の前に

深く願い 祈った

 

白い花弁のように

最期に僕も

鳴けるようにと